VOGUEの新人デザイナー賞を受賞したエイミー・パウニーに密着したドキュメンタリー映画「ファッション・リイマジン」を観た。
自身がデザイナーを務めるブランドを、流通、素材、労働、動物倫理などの観点から見直し、サステナブルなブランドへと生まれ変わらせるまでの道のりを三年間にわたって取材したドキュメンタリーだ。
サステナブルファッションという言葉が使われるようになって久しい。
いまや、サステナビリティを掲げるD2Cブランドのみならず、ファストファッションブランドにも、その価値観は反映され、リサイクル素材を使った商品や、古着の回収を行うファストファッションブランドもある。しかし、そうしたブランドのコンセプトに変化が生まれ始めている状況があるとはいえ、依然、大量生産された安価なブランドが駆逐されることはなく、その価格の安さから、まだ一定の支持を集めていることは事実である。
また、オンラインショップが盛況の今、例えばSHEINにおける労働者の人権侵害問題など、ファッション産業は、まだまだサステナブルという状態には程遠い。
このドキュメンタリーは、エイミーを追うことを通して、同時に、ファッション産業のルールやシステム、生産プロセスの実情を追いかけるという形にもなっている。
そんな本作を観ると、ファッション業界が、サステナブルな状態になることに苦労している理由を3つ見つけることができた。
1つは、アパレル事業において、生産のプロセスを透明化することが難しいこと。
作品の中でエイミーは、ブランドに使うウールを、動物倫理に配慮した方法で羊を飼育している牧場から取り寄せると決意する。
多くの牧場では、動物倫理に適わない方法で羊を飼育している現状があり、そもそもサステナブルな牧場を見つけることが難しい。
さらに、その羊毛をサステナブルな方法で紡績、加工ができる工場も探さなくてはならない。服を作るという作業には、原材料の栽培、紡績、加工、洗浄、染色、輸送といった何段階もの複雑なプロセスがともなうため、それぞれのステップで、労働環境、化学汚染、資源保全に配慮しているのかを明らかにし、透明性を確保することは決して簡単なことではない。
つまり、完全にサステナブルなサプライチェーンを確保することは、多くのブランドにとって大きな壁であるということ。
もう一つは、これは多くの人が感じていることでもあると思うが、サステナブルな商品は価格が高く、多くの消費者が気軽に手にとれるからだ。
先述したようなサステナブルな生産地、工場は、それだけコストをかけているため、それを採用するブランドにとっても、そのブランドを購入する消費者にとっても、コストがかかる。
サステナブルファッションという概念が広く認識されるようになってきて数年は経っているものの、それが「当たり前」と呼ぶことができるまで、広まっていない。それにはこの二つの理由があるのではないかとこの映画を観て、考えさせられた。
映画の内容と直接関係はないが、もう一つ理由があると思う。
それは、「サステナブル」という言葉自体に、親しみにくいニュアンスが含まれているからだ。私が鑑賞したときも、100席ほどの規模のシアターに、私含めて、観客はたったの5名だった。服を着る人なら誰にとっても関係しているはずテーマだが、「サステナブルファッション」という言葉が冠されているだけで、自然発生的に「サステナブル」、「ファッション」あるいは映画やドキュメンタリーが好きで、関心がある人向けのものであるというイメージができてしまうのだと思う。それが、サステナビリティを自分ごと化することができない大きく、根強い原因だと思う。
遠い国の不当な労働、環境汚染、農薬などの化学物質による健康被害。深刻だと分かっていても、少し買い物の仕方を変えるだけでいいと分かっていても、行動に移せないのはどうしてだろう。そんなことを考える。
意識を変えるというのはたしかに難しい。慣れてしまった生活や考え方を変えることは難しい。めんどくさい。でも、一度その強固な壁を打ちこわしてしまえば、そのあとは、また新しい考え方に慣れていくだけだ。それは案外、やってみれば簡単なことかもしれない。
「ファッション・リイマジン」を観ることは、凝り固まってしまった買い物のあり方、ファッションへの向き合い方を見直し、「リイマジン」するチャンスになるはずだ。