神楽坂 Juttoku.|自分の香りを素材に込めて

essay

東京在住歴=年齢の、自称シティーガールのわたしはこの頃、東京の遊び場は行き尽くした感があり新たな週末の楽しみ方として、クラフト体験なるものを開拓しています。
今回は、神楽坂にあるJuttoku.さんというお香ショップでお香作り体験ができるということで、予約をとって行ってまいりました。

Juttoku. 公式HP https://juttoku.jp/exp/

5感を研ぎ澄ませてひたすら手を動かす1時間。花粉症のピークと重なり、嗅覚が半分機能しない状態ながらも、すてきなお香が出来上がりました。今回は花粉症でも楽しめるお香作りをレポートします。

香りの故郷に思いを馳せる

お店に入った瞬間に感じたのは「お寺みたいな匂い」。あとは仏壇のあるおばあちゃんの家。お香の匂いって、古いものを連想させます。その理由はおそらくシンプルで、お香がずっと前からあるものだから。それが使われるシーンも自然と、平安時代とかから続く伝統が息づく場所になるということなのでしょう。

それはさておき、わたしはこの「古風な香り」を作りにきたのです。スタッフの大人しめなお姉さんからレクチャーを聞きます。今回使うのは、9種類の香料。実際の植物も見本として見せていただけました。一つひとつ香りを嗅ぎながら、香りの特徴や植物の原産地などの説明を丁寧にしていただけます。

原料の産地はほとんどが中国やインドのもの。日本で取れる植物は1つもないことに意外さを感じます。「日本古来の香り」と思っていたお香やお線香の香りは、もとを辿るとインドや中国に行き着く。純粋に「日本的なもの」って実はあまりないのかもしれないな、そんなことに思いを馳せました。

頼るのは、じぶんの感覚だけ

9つの香りには甘い、スパイシーといったテイストや、強さの違いがあります。説明の中で、「龍脳」というインドにある龍脳樹という木から採取される香料はとても匂いが強く、入れる分量を気をつけないと、他の香りをかき消してしまうと念押しされました。でもそれをほんの少し加えることで、個性豊かなそれぞれの香りにまとまりを出してくれるという効果があるとのこと。

とにかく、香料の世界にあるのは「いい香りー悪い香り」という基準はなく、「自分がイメージする香りに合っているかー否か」だけのようです。普段何かを作る時(それは例えば料理でもSNSの投稿でも)、簡単に情報が得られる私たちは、GoogleやPinterestにある既存のイメージや言葉を踏襲してつくることがほとんど。

そんな中「香り」には、みんなが「いいね」と言っているものや流行っているもの、といった正しい解なるものがない。だから頼りにするのは本当に自分の嗅覚のみ。粉を加えるごとに自分の鼻で匂いを嗅いで、好きか好きじゃないか、もっとどうだったら好きになるのかを問いかけていく時間。久しぶりに自分の好みにひたすら向き合えたなと、意外な満足感を得られました。

感性に正直になれる空間

最後は、ブレンドした粉と水を練り合わせてペースト状にしたものを、型抜きしていきます。
型の柄もバリエーションがたくさん。好きな形にくり抜いていきます。お香作り全体を通してこういう黙々とやる作業が多いので、スタッフさんは作業の説明をしたらその場から去り放任するスタイル。

この類のクラフト体験って、「自分の好きなように作ってみましょう」という立て付けにはなっているものの、なんとなくスタッフさんの目とか、お手本を意識してしまって、無難なものに置きに行ってしまうんですよね、自然と。それってある意味、自由な発想が妨げられている場にもなりかねない。だからJuttoku.さんのこの放任スタイルはとても心地が良くてのびのび制作ができました。

半分は自分に、半分は誰かに

型の大きさは大小様々。わたしは少しずつ何度も楽しめるように、小さめの型をたくさん使い全部で10個ほどのピースができました。まだ柔らかい状態で木のケースに並べて持ち帰ります。これを2日間ほど家で乾かしたら、火をつけて楽しめます。

家に持ち帰ったはいいものの、10個って意外と多いなということに気づき、祖母にお土産としてあげることにしました。先述した通り、祖母の家には亡くなった祖父の小さな仏壇があります。線香の代わりにしていいものかはわかりませんが、こういうのって結局大事なのは心。手をこめて作ったお香を炊いて手を合わせました。むしろ形もさまざまな手作りお香には、線香にはない不器用な味わいがあって、祖父も喜んでくれそう。

まとめ

長くなりましたが、Juttoku.さんでのお香作り、ぜひ体験してみてほしいです。
ふだん、意外と出番の少ない「嗅覚」をフルに働かせて、自分の好みに向き合う時間。
もはや今となってはSNSから離れることで不安になってしまうくらい、私たちの多くはネット上の人間関係に依存しているのかもしれません。
手を動かす体験に参加して、ネット世界からシャットアウトして自分の時間を楽しむ。自分で作ったフィジカルなものを、身近にいる本当に大切な人とシェアをする。こんなすてきな「手工芸」を通じたコミュニケーションが増えるといいなと思います。

Juttoku. 公式HP https://juttoku.jp/exp/

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