ミスティック・ピザ

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秋の真夜中。ホールのピザを床に広げて、90年代風のスウェットをざっくりとかぶって観たい〈ピザ映画〉の金字塔、「ミスティック・ピザ」を観た。

ミスティック・ピザとは、とある港町のピザ屋の名前。ここで、主人公のデイジーとその妹のキャット、親友のジョジョが、不貞腐れて文句を言いながらアルバイトをしている姿が、まず、とても可愛い。「90年代」「ピザ」「ラブコメ」という言葉を聞いただけでこの作品を観る十分な理由になる人もいるかもしれない。(わたしも含めて!)

そうでなくても、自分とは身分違いの裕福な家柄で育つ青年と恋に落ちるデイジー、ベビーシッター先の父親を好きになってしまうキャット、愛する人と婚約するも、マリッジブルーに頭を抱えるジョジョ。少なくとも3人の中の誰かひとりの境遇や感情に共感できる人は多いと思う。観る人の経験や好みによって、観るタイミングによって、主人公が誰かという意見が変わってきさえしそうな、味わい深い作品だ。

ジュリア・ロバーツの大ヒット前夜の作品として名高い本作で、どのレビューでも彼女の可愛さを強調するものが多いが、ジュリアロバーツ演じるデイジーの輝きに決して見劣りしないアナベス・ギッシュ演じるキャットとリリ・テイラー演じるジョジョも、この上なく魅力的に描かれている。だからこそ、この等身大の3人の誰に感情移入しても、最初から最後まで、飽きることなく夢中になれてしまう映画だ。

決してジュリアロバーツの引き立て役としてではなく、彼女たちの役本人として、自立し、素敵な個性と意志を持つ女性として描かれている。それはまるで、スライスがピッタとはまって円になるピザのようで、ジョジョ、デイジー、キャットの3人のピースがピッタリとはまりあっているからこそ、最高のピザ映画に仕上がっているのだろう。

見た目が華やかで、底抜けに明るくて、愛想がよい−−。こうしたいわゆる一般的な主人公像から外れた、キャットとジョジョにも十分にスポットライトが当てられて、さらにこの2人のキャラクターがどこまでも魅力的に描かれているのが、この映画を単純明快なラブコメではなく、30年を経た今でも、観た人に寄り添い、勇気づけてくれる作品たらしめるひとつの要素だと思う。「モテる/モテない」の二項対立を超えた、3人3色の恋愛模様を前向きに描くことで、キャットやジョジョのような、王道ではない、オタクで、おしゃべりで、垢抜けない人たちの魅力を祝福してくれているように感じる。

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