会社の中での立ち位置、人間関係の中で自分がどう思われてるのか気にしすぎてしまうこと。社会に出たばかりの今、アイデンティティに関する悩みって見えにくいけど、多くの人が抱えているものだと思うようになった。
アメリカの片田舎オレゴン州。遠く離れた土地なのに、フランのことを見つめ続けていると、だんだん自分と重なり合わさってくる。デスクのそばで繰り広げられる雑談は一語一句聞こえてくるのに、あたかも聞こえていないかのように仕事をしていたり、コーヒーを淹れるほんの少しの間、話しかけられるとうまく答えられなくて気まずい時間が長れたり。(フランのオフィスは階段移動なのは幸運だ……)オレゴンと東京、遠いはずなのにとても近くに感じる。とても不思議だけど、見ていて心地が良かったのは、その妙な親近感のお陰だと思う。
そして、そんなわたしとそっくりなフランから学んだことがある。
それは「食べものの持つ魔法」。フランには口元を触るという癖がある。映画冒頭はそれがとても気になったけど、終わりごろにはそんなこと忘れていた。その癖が見られなくなった1つのきっかけは、ロバートと一緒に、パイを食べてから。な気がする。パイを食べながら、映画の感想を語り合って、2人は打ち解ける。ついでにその帰り際にパーティーに誘わちゃう。パイを食べたら、フランの世界が急に開けてきた。そのあと、蟹を食べるシーンではフランは自らの生い立ちを少しだけだけど話したり、最後は職場のみんなにドーナツを差し入れる。最初、カッテージチーズを乗せたハンバーグみたいなものを1人で黙々と食べていたフラン。1つの料理を誰かと一緒に分かち合ったり、誰かのために食べものを用意して、差し出したりする。それを見たときのあの、心が緩む感覚というか、安心する、ほっとするような気持ち、まるで自分のことのように嬉しかった。食べものという普遍的なものが、フランと職場の人、フランと映画を観ている私、映画を観ている私と、フランの職場の人たちをつないでいるみたいだ。人と人がつながり合うって簡単に見えて、すごく難しくて、そしてすごく素敵なことだ。食べものと少しの勇気があれば、誰でも、誰かとつながることができるかもしれない。