映画「アイ・ライク・ムービーズ」レビュー|1人で観る映画もみんなといる時間も大好きで…

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映画.com https://eiga.com/movie/102475/

映画「I Like Movies」。カナダ出身の監督による、映画好きの高校生が過ごす最後のハイスクールライフを描いた青春映画です。
雑誌POPYE映画特集の表紙も飾り、カルチャー好きの間で話題!という風潮に、若干の冷めた視線を向けていた筆者ですが、好評の声に抗えず……しっかりとスクリーンで観てきました。
想像以上にすてきな作品だった上に、moonlight magazineと相通じる空気を感じざるを得ないということで、しっかりレビューをします。

カナダ映画ってあんまり観たことなかった

カナダを舞台にした映画作品と言われてパッと思いつく作品って正直あんまりない。
シティーガールを自称する筆者は、はじめカナダという舞台設定に魅力を感じなかったのだけど、実際に観てみると、カナダの片田舎町が舞台になっていることがこの作品の、メッセージ性を何倍にも強めていることに気がつく。
町にあるビデオショップの閉鎖性は特に著しい。足繁く店に通う主人公ローレンスは店員と顔見知り状態。どんな作品を、いつからいつまでの間借りているのか、どれだけ延滞しているのか、おそらく他の諸々の個人情報も店員に割れている状況は、プライバシーなんとは無縁の世界。誰がどこで何をしているのか、コミュニティの中でおおよそ把握されているという田舎あるあるな描写が、DVDショップを舞台に誇張されるのが面白い。
そしてその限られたコミュニティの中で繰り広げられる、キャリアや私生活にまつわる“コンテスト”。これはほとんどの人の身に覚えがあるかもしれない。
〇〇はあの大学/あの企業に受かったらしいとか、海外にいるらしいとか、〇〇の雑誌載ったんだってとか、なんか目立つことやっている人とか、みんなが知ってる〇〇に籍を置いている人が”成功者”で、そうでない人は肩身が狭い。狭いコミュニティではそういうしがらみと無縁に生きていくことは難しい…この息苦しさは、カナダの片田舎という舞台設定でかなり強調されていて、主人公や他の人物の、心の葛藤がひしひしと伝わってくる。そして共鳴できる。カナダ映画、侮れません。

あとはローレンスが夢に見るNYUやニューヨークの「桃源郷」としての姿が強調されるのも面白い。NYU、NYUって何度もローレンスの口から出てくるし、親友と一緒にサタデーナイトライブのオープニングモノマネ(NYの街をイメージして真似をする)にもあるように、NYの街は、カナダにいるローレンスをはじめとする登場人物の身体を通してしか立ち現れない。その健気さというか惨めさもなんかとてもよかった。

i LIKE movies / i LOVE you

“I like movies”というセリフで、人とのコミュニケーションを遠ざけ自分の世界に引きこもるローレンス。もちろん彼の1日をずっと追っていれば映画を観ている時間がとてつもなく長いのだろうけど、この映画ではローレンス、いろんな人と喋ってる。なんかもうずっと喋ってた。
むしろローレンスは、映画も好きだけど、人と過ごす時間も大好きな人なんだと思う。オープニングは親友のマットとわちゃわちゃしながら作ったミュージックビデオから始まるし、お母さんとのシーンもずっと喋ってる。喧嘩しながらお互い怒り口調で 
“ I love you!!”って言い合うシーン、かわいかったな。あとはバイト先の同僚とも楽しそうに話してたり。映画は確かに大好きなんだけど、それだけじゃなくて人とのコミュニケーションもローレンスにとってはかなり大切。だからこそ、悩むし、中盤のしんどそうなシーンは心打たれた。親友と疎遠になり、家族ともうまくいかない、誰かと打ち解けたいのに、打ち解けられない。そんなローレンスの孤独は、大好き映画でさえ救ってくれない。
彼は映画に関しては”I like movies”といつも言っていた。でも、母親、親友のマット、バイト先のボスには i LOVE youとはっきり言う。それもとても気持ちと自信を込めて。そのシーンが印象的だった。やっぱり人が好きなんだよねきっと。
自分の好きなことだけをして、面倒な人間関係なども一切なければどれだけ楽か。と思うことも正直ある。けど結局それって本心ではないというか、いざ1人になると寂しくなるし、1人の時間が楽しいのは、いつでもどこかに自分に構ってくれる人がいるという安心感がベースにあるからなのだよね。

「オタク=コミュニケーションを拒絶する人」という先入観にNOを突きつけ、オタクでも人とつながることができるし、そう言うレッテルに惑わされない人間関係がいかにすてきなものか、髪の毛をさっぱりと切ったローレンスの姿を通して、再確認した。

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